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会話_2

2003/04/06:久世紀弘









芳裄
「何故、君はまだ生きている?」

朗人
「…唐突だな」


佐々木芳裄、谷地朗人は夜の公園にいた。

全てが寝静まり、時たま流れる風だけの音が残る。

二人は石垣の上に身体を投げ出し、眼下に広がる街を眺めていた。

芳裄はいつものように黄色いパッケージの煙草を。

普段吸わない朗人も青いパッケージを手に灰煙を吐き出す。



朗人
「まだ、ってことは?」

芳裄
「そのままの意味だよ。…最近楽しいことが無くてね」

朗人
「仕事、しねぇからだろ」

芳裄
「怠ぃんだよ。アルバイトだけでいいっての」


芳裄は忌々しげに立ち上がり、石を蹴り飛ばす。

ジャッ という砂を蹴る音と、放物線を描く脚。

それは崖に沿うように堕ちていった。



朗人
「親の脛ばかり囓るってのは頂けないな」

芳裄
「そういう君こそ、家に留まってるじゃないか」

朗人
「俺は学生だぜ? とは言っても、その点に関しては結構気にしてるつもりだよ」

芳裄
「…ハッ。怠ぃ世の中だ」

朗人
「生きてる意味ってのかな。俺がここに存在してることには意味があるからだと思ってる。
例えばダラダラ生きて… 死ぬ。それは悲しいことかも知れないけど、意志が残ると思う」

芳裄
「そんなもの、残したくもないね」

朗人
「人が人に干渉し、影響を与えることが、その人の生きた証と言えるんじゃないかな。
だから、俺が突如交通事故で死んだとしても全てが消える訳じゃない。
生きてきた意味は誰かに引き継がれる… そう考えてるよ」

芳裄
「なら、今此処に居る理由も無いじゃないか」

朗人
「…何だ、死にたいのか?」

芳裄
「面倒なんだよ、何もかも。…だから仕事に就こうとも思わない。
このまま無駄に歳喰っていく自分を馬鹿みたいに笑ってるだけさ」

朗人
「佐々木は自暴自棄になってるだけだ。外へ出ないからそうなる」

芳裄
「谷地くんが、気楽なだけかもな」


芳裄のその言葉で二人の間に僅かだが沈黙が訪れた。

「谷地くん」という言葉。

普段であれば絶対に朗人の名を言わない芳裄だ。

お互いにそれを解っているから、共に違和感を覚える。



朗人
「未だにこの世に残ってる理由なんて、ごく単純なことだって。
俺が死ぬことによって、俺を認めてくれた人達を悲しませたくないからだ。
それは、親や友人、世話になった先生方だな。俺を知る全ての人達。
彼等を俺の無意味な自己満足で傷つける訳にいかないだろう?
じゃなけりゃ、とうの昔に自殺してるだろうよ」

芳裄
「随分と幸せな環境だな」

朗人
「どうかな」

芳裄
「親を憎んでる俺からすれば、そう捉えられるよ」

朗人
「そうだったな。…全く、なんで憎んでるんだか」

芳裄
「ハハッ、言わねぇよ」

朗人
「ったく…」

芳裄
「親との関係なんて、知らない間に途切れたさ。
あいつ等には関心無いね。繋がりが無いんだよ」


馬鹿らしい。

そう言いたげに芳裄は顔を歪ませる。



朗人
「…それじゃぁ。俺が、家族を愛してるとでも言うのか?」

芳裄
「だろ?」

朗人
「否定はしない。けれど、それは正しくないな。
居なければいい、そうも思ってる」

芳裄
「誰だってそうだろうよ」

朗人
「そんなもんか」

芳裄
「だ」

朗人
「はぁん?」

芳裄
「…後のことはどうなるか知れねぇ。
知れねぇが、今があるだけで充分だ」

朗人
「俺は証を立てたいね。生きてきた証。
最初の方で言った、何故まだ生きてるか、ってのにも繋がるだろ」

芳裄
「ふん。それなら、俺が立ててやるよ。
君が生きてきた記憶。それでいいだろ?」

朗人
「へぇ、それなら佐々木はどうするんだよ?」

芳裄
「ハハッ、君を見てる、ってのも証になるだろうよ」

朗人
「うぁ………」

芳裄
「うぁ、って何だよ」

朗人
「はぁ…」

芳裄
「フハハハハハ」

朗人
「ケッ。へいへい、ありがとよ」







ぶっちゃけて言って、書きやすいです。

この二人。

どうとでも扱える様が、また…

ネタは勝手に出来ていくので問題なし。

まぁ、会話なんて普通、こんなもんでしょう?

アッパー系か、ダウナー系の差はあれども、ね。