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友との再会

2004/01/12:久世紀弘






玩具屋でのアルバイトをしていた。

立て続けに来る客を矢継ぎ早に処理し、いつものように店内を見回す。

「万歩計って置いてますか?」

ジャージを着た青年が、いかにも走ってきましたと言わんばかりの勢いで問いつめてきた。

中学時代に苛められっ子として活躍してくれたE君に似ている。

いや、似てるどころではなくて彼の成長した姿がそれなのかも知れない。

「少々お待ち下さい」

文具屋担当のスタッフに在庫状態を確認する。

「申し訳ございません。在庫の方を切らしてしまっているようです」

彼は、そうですかと素っ気ない返事をして帰っていった。

この日はちょっと不思議な奴が来たくらいにしか思ってなかった。

三日くらい後だろうか。

いつの間にかジャージ姿の彼が、レジ横でお菓子を選んでいた。

不思議なこともあるもんだ思いながら、お菓子を計量器に乗せてレジに打つ。

「7円になります」

たった一つのチョコボール。

専用袋に入れようとしたお菓子を彼は「あ、そのままでいいです」と口に入れてしまった。

これでE君でなければ、ただの変人だ。

客の中でもかなり異質な方に入るだろう。

知り合いだからこそ許される、こうしたスキンシップ。

そのまま帰るとばかり思っていたが、彼はまだお菓子を買うつもりらしい。

赤や緑色をしたグミを選んでいるようだった。

原材料名、赤02号、黄07号…

詳しくは忘れたものの、確かそれらは発癌物質。

仮に彼がE君だとすれば、当時の僕が極度の健康オタクだったことを知っているはずだった。

忘れた、だなんて言われてしまうのだろうか。

それともある種の嫌がらせだろうか。

沢山のグミだけを持ってきた彼は突如口を開いた。

「いつから働いてるんですか?」

おおかた名札を見られたか。

確かに何回か前に立たれては、見られていてもおかしくないだろう。

「最近だよ」

初めから分かっていたことではあった。

その挙動不審さ、ボサボサの頭、ふらふらと高い身長。

一般的な中学生に嫌われる要素を持ちすぎたEという名の彼。

「今は何してるんですか?」

「○○大学の文化科学に行ってます」

「就職は決まりましたか?」

「まだです…」

「やはり文系となると厳しいですか。でも、そろそろやばいですね」

「そうなんですよ」

次々と不躾な質問を投げかけながら、そんなもんだろうと薄情にも納得していた。

頭はある程度よかったものの、我が弱い奴だった。

とてもじゃないが働いてる姿を想像できない。

…けれど。

こう言ってはなんだが、嫌いな奴じゃない。

基本的にモラリスト。

だからこそクラス中避難の的である彼とも遊べたし、話もよくした。

行動も共にした。

今でも一緒に撮った、背景だけ変わる修学旅行写真が沢山残っている。

四人でのグループだったものの全員が直立不動、微動だにしない。

まぁ、真面目な連中だけでグループを作るとろくでもないということの証明でもあった。

「そういやジャージ姿ですけど、走ってきたんですか?」

「いやいや。違いますよ。これから走るんです」

苦笑の極みにあるようで、どうしていいか分からないようだ。

「俺はこの通り、玩具屋店員」

「就職したんですか?」

「いや、短期だからそのうち終わるよ」

若干言葉を砕けさせた。

いい加減虚勢を張るのはよさないか、と。

会話の流れからか、そろそろいい気がしたのだ。

彼は大人になった。

僕も前よりかはマシになった。

それがお互いを意識させ、妙な空気を作っていたのだろう。

「早く決まるといいな」

最期の別れ、なはずだ。

バイトで知り合った奴らとも別れ、再会したE君とも別れる。

一期一会は苦手だ。

今は、こんなことなら「よ、元気?」とでも気を利かせればよかったと後悔しているのだ。

どうしようもない自分に嫌気がさしてくる。

この不器用さが改善されるのにどれくらい日数が必要なのか。

「そんなの気にしてないよ」

彼ならそう言うと思われる言葉が空耳となって聞こえる、そんな夜道だった。



――― fin ―