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獣達の宴

2004/01/25:久世紀弘






「戻ってきたんだ」

「うん」

「あいつらと同じように私としたいの? それとも殺されに来た?」

「うん」

「可哀想な仔。でも、どっちにしたって――― 私の食事になるんだよ」

「…違うよ」

「ん?」

「殺しに来たんだ」



彼女が化け物になってしまって。

彼女が泣いているのか、化け物が泣いているのか分からなくて。

それでも助けたくて。

でも、僕には助ける力がなくて。

家に逃げ帰って震えてると死体となった親友の目が何かを訴えていて。

せめて、他に方法が見つかればよかったんだけど。

他に方法もなく…

だから―――



「さよならは言いたくなかったな」

「私がいると迷惑?」

「人が沢山死ぬからね」

「貴方は死んでないわ」

「僕の友達が死んだ」

「私じゃないわ。…ねぇ、それよりも貴方を楽しませる方法知ってるんだけどな」

「君たちはそうやって一人一人を虜にしていくのか?」

「物騒な目してるからよ」

「…周波数って知ってるかい?」

「それくらいは?」

「もし、それを変えれることが出来る人間がいたら凄いと思わないかい?」

「よく、分からないけど… 変えれると何か起きるの?」

「音や色も全て周波数で出来ているんだ」

「だから、それくらいは知ってるわよ」

「人間の細胞もね、周波数によって成り立っている。固有の物質全てが波を持っているんだ」

「へぇ?」

「僕はそれを動かせる」



もちろん、はったりだ。

そんな力があったら世界が滅ぶ。

それに僕が弱者である理由にならない。

親友を目の前で死なせてしまったのだから。



「本当はこんな場でなければ、君に告白したかった」



隕石落下。

あらゆる場所で起こる化け物達による女性の強姦。

街一つが閉鎖され、殺されていく男達。

化け物へと変わっていく女性達。

彼女も変わってしまった。



「告白されても困るんだけどな」



間合いは取れない。

目の前にいる存在に震え上がる脚を更に棒のようにさせる。

けれど、こうしなければいけない。

住宅街であるその道に一陣の風を吹かせるように、跳ぶ。

左、右に二本ずつの触手。

唸るように空を切り裂き死の手が迫る。

気にすることなく本体である彼女へと真っ直ぐに奔る。

隠し持っていたナイフを逆手に斬り付けた。

彼女の生身の腕に一筋の赤い血が流れる。

…悪いことをした。

罪悪感で彼女に抱きついてしまった。



「…何のつもり?」

「食事になろうと思って」

「じゃぁ何で私を斬ったのよ?」

「ただで食べられちゃ僕という存在が無価値みたいに思えて」

「…はぁ。で、さっきのは何?」

「君の戦意を削ぐことが出来ると思ったんだけど…」



完全に拘束された状態。

すまなさそうに言うと締め付けがきつくなった。

彼女が繰り出してきた触手は僕を覆い込むように襲ってきた。

つまり、僕を貫くつもりがなかったってこと。

はじめから捕獲するつもりだったらしい。



「君を殺せるとは思えない」

「そうね」

「僕を、食べる?」

「どうしようか」

「どうせなら頭からお願いしたいな」

「殺しちゃうのも勿体ないなぁ…」

「逃がしてくれる?」

「どうせ戻ってくるくせに。それに他の連中に殺されちゃったらどうするのよ」

「じゃぁ、どうしろと…」

「私に犯されると貴方もこうなれるかも…」

「……ヤダ」

「なれるかも」

「ヤダ」

「どうしようか」

「絶対にヤダ」

「どうしようかなー」

――― fin ―







ラストはありません。

出来ません、書けません。

これは大分前に書いた「夢_獣達の宴」をぶっ壊したものとなっています。

一応、後編扱いですがストーリーが繋がってるかは疑問…

前編も読みたいという奇特な方は こちら

本当はかなりシリアス全開だった気がするんですけどね。

無性に書きたくなって、やっぱりハッピーエンド?になってしまいました。

この方が萌えますよね!! < ご婦人方

変態とか言わないで…